サラリーマンなら誰でも持っている健康保険証。でも仕事中や通勤中に怪我をしたら、この健康保険証は使わない方がいいことをご存じでしょうか?
合わせて、労災保険に入れない個人事業主やマイクロ法人の役員はどうなるのか、今回は健康保険と労災保険について調べてみました。
サラリーマンの場合
仕事や通勤中に負った傷病には健康保険が使えません
「そんな!保険証が使えないなら全額負担になっちゃうの?」なんて焦らなくても大丈夫です。その場合は保険証ではなく「労災」という扱いになり全額補償されます。
もちろん、仕事に関わることなので通勤・休日出勤・出張・会社主催の運動会などで負った傷病や、ハラスメント行為により精神的疾患を負った場合なども補償されます。また、持病であっても職務に起因して悪化したと認められれば適用になることだってあります。
事業主が従業員を雇用したら労災保険に入ることは義務なので、もし会社に言っても対応してくれない時は社労士(社会保険労務士)に相談するか、直接労働基準監督署へ相談に行きましょう。
また、申請なんて面倒だからとか、会社から労災にするなと言われて保険証を使った場合、後遺症が出て後で労災に変更しようとすると大きな手間がかかりますので、病院へ行った際は「勤務中に怪我をした」と伝えましょう。
労災事故が起きた場合、事業者は労働基準監督署に死傷病報告を提出しなければなりません。(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則97条)なので、会社から労災にするなと言われたら「労災隠し」となるので労働基準監督署に相談しましょう。
また、労災指定医療機関で受診すれば代金を支払うことはありません。
労災保険給付の種類
療養(補償)給付 | 業務または通勤が原因となった傷病の療養を受けるときの給付 |
休業(補償)給付 | 業務または通勤が原因となった傷病の療養のため、労働することができず、賃金を受けられないときの給付 |
傷病(補償)年金 | 業務または通勤が原因となった傷病の療養開始後、1年6か月たっても傷病が治ゆ(症状固定)しないで障害の程度が傷病等級に該当するときの給付 |
障害(補償)給付 | 業務または通勤が原因となった傷病が治ゆ(症状固定)して障害等級に該当する身体障害が残ったときの給付 |
遺族(補償)給付 | 労働者が死亡したときの給付 |
葬祭料・葬祭給付 | 労働者が死亡し、葬祭を行ったときの給付 |
介護(補償)給付 | 障害(補償)年金または傷病(補償)年金の一定の障害により、現に介護を受けているときの給付 |
看護・移送などにかかった公共交通機関、タクシーなどのレシートがあれば保管しておき一緒に請求しましょう。※ただし一定の条件があります。また高速代やパーキングの費用は支給対象外です。
労災を利用するときの4つの注意点
1.請求手続きは被災した本人や遺族が行います
本人、又は本人が死亡した場合は、遺族が直接労働基準監督署へ直接請求書を提出します。(指定医療機関の場合は病院へ提出)
請求は会社がやってくれるわけではありません。
労働基準監督署に請求書を提出すると、会社側で勤務中の傷病である事業主証明をしてもらう必要がありますが、会社側が事業主証明を拒否したとしても労災保険の請求書は受理されます。
2.労災に認定されない場合があります
ただし、受理された申請はすべて労災認定されるわけではありません。労働基準監督署で労災であるかどうか判定するのですが、過去に労災認定されなかった事例があります。
例えば、「勤務中個人的な恨みによる暴行で負傷」「通勤中に私的な寄り道で負傷」「意図的に災害を発生させた」「業務とは関係ないことをしてケガ」などで、これらは労災として認められませんでした。また通勤中の自然災害による被災も認定されないことがありますので注意してください。
そして、判定の結果、労働基準監督署が労災として認定しなかった場合は不服申し立てもできます。そうなったらまずは弁護士さんに相談される方が良いでしょう。
3.労災指定医療機関以外の病院へ受診したら一旦全額を払うことになります
労災指定医療機関以外の病院を利用した場合は、一旦全額を個人負担することになります。
そして、請求書に事業主や医療機関から証明を受けて労働基準監督署へ提出します。
労災認定・給付決定されるまで1か月ほど掛かりますが、給付決定されれば指定の口座に全額振り込まれます。
もし、労災かどうか微妙であれば一旦健康保険証を使い、労災認定されたら請求し直すという手もあります。
4.請求には2年や5年など、それぞれ時効があります
通院・休業・介護などは2年、障害、遺族年金、遺族一時金などは5年など、それぞれ時効があります。時効後は請求できなくなりますので要注意です。
時効はあとどれぐらいあるのかわからなかったり、退職してしまった後や、会社が無くなってしまったなどで労災補償を受けられるのかわからない場合も労働基準監督署へ相談しましょう。
マイクロ法人や個人事業主の場合
サラリーマンと違って、個人事業主や法人の役員は労災保険に入れないため、労災保険も健康保険も適用できない時代がありました。※今は改正されています(下記参照)
でも、個人事業主や法人の役員だって労働しています。その場合、勤務中に傷病を負ってしまったらどうすればいいのか、以下の救済パターンがあります。
マイクロ法人なら健康保険証が使える
健康保険法が改正されて被保険者5人未満(4人まで)の法人の役員なら健康保険証が使えます。(5人以上のマイクロ法人の役員は次の項目の「労災保険特別加入」を検討してください)
(法人の役員である被保険者又はその被扶養者に係る保険給付の特例)
第五十三条の二 被保険者又はその被扶養者が法人の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この条において同じ。)であるときは、当該被保険者又はその被扶養者のその法人の役員としての業務(被保険者の数が五人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務であって厚生労働省令で定めるものを除く。)に起因する疾病、負傷又は死亡に関して保険給付は、行わない。
※健康保険法より抜粋
条文がややこしいのでこの条文を要約すると・・・
被保険者が法人の役員であるときは、当該被保険者又はその被扶養者のその法人の役員としての業務に起因する疾病、負傷又は死亡に関して保険給付は行わない。(ただし被保険者が五人未満である適用事業所の役員を除く。)
つまり、「法人の役員には保険給付してないけど5人未満の事業所の役員なら保険給付するよ」という意味です。
労災と違って全額補償されませんが、いつもの3割負担で済むのでまだ安心です。
※個人事業主の場合は、国民健康保険の場合はそのまま国民健康保険が使えます。
労災保険特別加入を利用する
法人の役員や個人事業主などの自営業者は特別加入団体を通じて労災保険に特別加入することでサラリーマンと同じ労災保険を受けられます。
また、加入期間や金額を任意で変えられるので保険費用を抑えることもできます。
ただし、事業内容や従事期間によっては加入前に特定の健康診断を受ける必要があり、すでに疾病があった場合は加入の制限や給付金を受け取れないこともあるようです。
なお、マイクロ法人で労災保険に特別加入をしている場合、サラリーマンと同様に勤務中に負った傷病は健康保険ではなく労災保険が優先されます。
民間の損害保険に加入
また、民間の損害保険に加入する手段があります。
保険料は特別加入ほど安くありませんし介護や就業不能特約など細かく設定が分かれているので注意が必要ですが、労災かどうかの判定は不要、給付金の申請手続きは保険会社に連絡するだけで済むので手間がかからず簡単です。
また、保険会社によっては給付金の支給決定が早かったり、診断書不要や手続きがネットで完結できるなどのメリットもあります。
ただし、危険な作業を伴う業務の場合は支給を断られる場合がありますので事前に補償内容を確認しておきましょう。
まとめ
これでサラリーマンの方は社会的、法的に手厚く守られているかがお分かりになると思います。
しかし、実際には上司や会社から「労災なんて絶対使うなよ!」と言われる事もあるようです。でも、よく考えてください。そんなことを言う会社はあなたのことを捨て駒としか思っていません。
それに、災害が起きる原因を会社側は突き止め改善する必要があります。労災が適用できるなら使い、それでも拒否するような会社からはさっさと逃げましょう。
会社が労災を嫌うのは、保険料の値上がり、労働基準監督署による違法性の調査や行政指導、刑事告発を受ける可能性があるからです。
また、サラリーマンと違い独立するとさまざまなリスクも自分で対処するしかありません。これが脱サラ・独立に対する大きな不安要素の一つなのでしょう。
働けなくなったら無収入になりますし、後遺症が出ればさらに大変です。そのためにも個人事業者やマイクロ法人の方は制度を利用しリスクに備え、事業を拡大することに専念していきましょう。