老後2,000万円問題、報道された時は老後資金に2,000万円を用意しないと、人生破綻すると解釈されて世間を騒がせた報道です。でも、今ではほぼ報道されなくなました。
今回は、その後老後2,000万円問題はその後どうなったのか、今でも老後の資金に2,000万円は必要なのか、そして老後資金はどうやって作るのかを解説していきます。
今では老後2,000万円問題は無くなりました
「老後2,000万円問題」とは、令和元年に金融庁が公表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書で指摘された、老後資金の目安が2,000万円という、世間を驚かせたニュースです。
しかし、現在では老後2,000万円問題を取り上げるメディアも少なくなりました。何故でしょう。
実は、この2,000万円という数字は令和元年度時点の平均的なモデル家庭の支出を基にライフプランを立てた場合、必要とされる老後資金なのです。
そして、現在の平均的なモデル家庭の老後資金は「ほぼ不要」となりました。老後2,000万円問題はいつの間にか消滅していたのです。
かと言って、完全に老後2,000万円問題が消えた訳じゃない
老後2,000万円問題は消滅したとは言え、それは平均的なモデル家庭でのお話に限ります。そのため個人の条件によっては2,000万円、あるいはそれ以上必要な方がいらっしゃいます。
具体的には独身または既婚、子供がいる・いない、持ち家か賃貸か、会社員か自営業か、厚生年金や企業年金に加入しているかによって左右されます。
しかし、この問題をきっかけに老後資金の目安として2,000万円は今でも一つの目標であり続けています。
それに老後資金は不要だとしても2,000万円が余分にあれば豊かな老後や子に遺産を残せたり、これから起きるかもしれない大きなリスクに備えることもできます。
全国銀行協会のホームページでは、老後のライフプランを無料で簡単にシミュレーションできるので、ご自分のさまざまなライフプランを想定して、色々と試してみてください。

安心できない家族構成の変化「熟年離婚」
例えば、既婚者であっても話題の「熟練離婚」により老齢で独身になった場合、特に長く専業主婦(夫)を続けられた第3号被保険者だった方は要注意です。
サラリーマンだった第2号被保険者は厚生年金により年金は手厚いのですが、専業主婦(夫)だった第3号被保険者は老齢基礎年金だけになるので年金額は月額6万5千円ほどです。(結婚前にサラリーマンだった場合、加入期間を基に算出された厚生年金も受け取れます)
そうなると生活は非常に厳しくなるので、サラリーマンだった方の厚生年金を双方で分割する年金分割(婚姻期間中の厚生年金の支給額の計算の基となる報酬額の記録が分割される)制度を利用することになります。
つまり、老いてから離婚してしまうと、世帯年収で目論んでいた年金額は互いに半分づつになってしまいます。それは夫婦共働きであっても同様ですので、安易な熟年離婚はお互い厳しい老後を迎えることになってしまいます。
余裕ある老後を過ごすためにも、夫婦円満であるに越した事はないでしょう。

年金は破綻するって本当?
よく「年金は破綻する」と言った声を聞くことがあります。では、なぜ年金破綻説は今でも燻り続けているのでしょうか。
その理由として、現役世代から集めた保険料を高齢者に年金として支給する「世代間扶養」という仕組みのため、今後高齢化が進むと支給される年金が減っていき、ついには破綻するのではないかと恐れられているからです。

しかし、実際のデータを見てみると、令和4年度の年金給付費は58.9兆円。それに対して、年金積立金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産額は2023年度第1四半期末現在で219兆1,736億円です。
しかも運用益は127兆3,658億円(累積収益額)です。(2023年度第1四半期の期間収益だけでも+18兆9,834億円)
この年金積立金の運用収益や元本は、概ね100年にわたる年金の財政計画をもって将来の年金給付を補うために使われます。
年金財源全体のうち、この積立金からまかなわれるのは約1割ですが、そのおかげで年金の破綻どころか不安要素はどこにもありません。
我々が収める保険料から年金はどのように支払われるのか、わかりやすい図にしてみました。

被保険者の種類は3つ



第1号被保険者
20歳〜60歳までの自営業者や農業・漁業に携わる方々と、その配偶者、および学生、無職の方は第1号被保険者となります。保険料は自分で納める義務があります。年金は国民年金と呼ばれています。(受給は老齢基礎年金)
国民年金保険料を納めるのは義務ですので、意図的に収めないと財産を差し押さえられ、強制回収されてしまいます。ただし、学生や収入によって納付が難しい場合は減免措置があります。
令和3年度における第1号被保険者の最終納付率は73.9%
厚生年金などを合わせた公的年金加入者全体の最終納付率は約98%
第2号被保険者
厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員の方です。(65歳以上の老齢基礎年金などを受ける権利がある方は除く)また、一定条件のパート・アルバイト1も対象です。
- 以下の条件でパート・アルバイトでも社会保険加入の対象になります。
・従業員101人以上の勤め先(2024年10月から従業員51人以上の勤め先まで拡大)
・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満(週20時間未満を複数掛け持ちした場合は対象外)
・所定内賃金が月額88,000円以上(残業代・賞与等を除く、基本給及び諸手当)
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない(休学中や夜間学生は対象)
適用されると社会保険に切り替わり、社会保険料が天引きされ手取り額は減りますが、サラリーマンと同じ手厚い保護が受けられます。社会保険料は会社と折半してくれます。 ↩︎
なお、この社会保険料は企業(強制適用事業所)に努めると強制加入になるため、厚生年金や健康保険、雇用保険、労災保険(40歳から介護保険も)を合わせて社会保険料として給料から天引きされます。
年金受給になると老齢基礎年金にプラスして厚生年金が上乗せされます。ただし、年収や加入期間によって受給額が決まるので、年収が低かったり加入期間が短いと、思ったほどもらえませんので注意が必要です。
老齢基礎年金と同様に繰下げ受給をすると受給額が増えます。老齢基礎年金と厚生年金それぞれに受給開始時期を変えることができます。
第3号被保険者
第3号被保険者は第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満の人)の方です。※年収が130万円未満でもパート・アルバイト先で社会保険に加入していれば第2号被保険者になります。
保険料は第2号被保険者である配偶者が加入している厚生年金や共済組合が一括して負担しますので、保険料を納める必要はありません。
ただし、一度も第2号被保険者にならなかった場合、年金受給時にもらえる年金は老齢基礎年金だけになりますので注意してください。

年金ほどリスクのない優遇された投資商品は他にない
個人事業主が加入する国民年金保険料は月額16,520円(令和5年度)。この金額を20歳から60歳までの40年間(480か月)全額納付すると、総額はおよそ793万円になります。
そして、65歳から受給開始すると月額6万5千円ほど受け取れる事になりますが、この額は生存している限りずっと受け取れます。
仮に女性の平均寿命である87歳まで生きると、22年間受給することになり、受け取り総額は1,700万円を超えます。(受給開始時期を遅らせる繰下げを行うと月額はもっと増えます)
しかも、年金にはマクロ経済スライドという仕組みがあります。その時の社会情勢に合わせ、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。このような優遇された投資商品は民間では実現不可能です。
因みに、サラリーマンでは、この年金と合わせて厚生年金も加わります。さらに、企業年金やiDeco(確定拠出年金)などの私的年金にも加入していれば、それらも合わせて受け取ることができるので、老後資金は十分になります。
高所得者ほど保険料は高額になる
ただし、社会保険料(厚生年金や健康保険、雇用保険など)や国民健康保険料、介護保険料(40歳から)は所得や地域、世帯の被保険者の数、資産により、納める保険料が変わるため、高所得者になるほど保険料は高額になります。
このあたりが高所得者にとって頭の痛い問題になります。
なお、個人事業の場合は法人成りさせて社会保険に加入し、年収(標準報酬月額)を低く設定して社会保険料の最適化を図ります。
そして、それまでの年収の差額を役員賞与(退職給与以外の臨時的な報酬)として「事前確定届出給与」の届けを税務署へ届ければ、手取り額を維持しつつ社会保険料を抑えることができます。
この手法は、一般的なサラリーマンにも通用します。

法人は、合同会社であれば代表一人でも設立可能です。厚生年金は扶養の概念があるので家族がいても一人分の支払いで済みますし、保険料は会社と折半、遺族年金は国民年金より優遇されているのでおすすめです。
退職金をもらってから投資をはじめるのは危険です
老後資金として退職金を当てにしている方は多いと思います。しかし、退職するまでいくら退職金がもらえるのかはわかりません。
そこで、思ったほど足りなかった退職金を投資で増やそうとしたり、投資でもっと豊かな老後生活を送ろうと思っている人に注意すべきことがあります。
それは、退職金を狙った悪質な投資詐欺や割高な手数料の投資商品に出遭いやすいことです。
悪徳業者はもちろん、大手銀行ですら投資話を勧めてきます。テレビコマーシャルで宣伝している投資商品は、どれも手数料や信託報酬がとても割高です。
しかし、今まで投資経験のない人にとってそれがどれほど割高か判断できないでしょう。
「報酬に見合った配当が貰えるならそれでも良い」と思われる方もいらっしゃいますが、その割高な報酬に見合う成績を安定して出せる投資商品など、この世にありません。
ではなぜ、彼らが必死になって投資商品を勧めてくるのでしょうか。それは「手数料、信託報酬目当て」だからです。
あなたの資産が、彼らが売った投資商品で増えようが減ろうが関係ありません。あなたが投資商品を持ち続けてくれるだけで、彼らは利益を得られるのです。
毎月分配型の投資信託も要注意です。毎月決まった額の配当金を得ることができる毎月分配型投資信託は、運用成績次第では配当金相当の元本を削って(特別分配金)支払う(取り崩す)ため、元本がどんどん目減りします。
また、投資初心者にありがちな失敗パターンは多くあります。
運用益が大きくマイナスに転じて狼狽売りしたり、盛況な投資商品を購入して高値掴みしてしまったり、タイミングばかりを気にして好機を逃すなど、資産を大きく減らしてしまう可能性は高いです。
投資にはそれなりに経験や知識と情報、失敗してもめげないメンタル、そして何よりも多くの時間が必要です。



投資の心構えとしては「超低金利の貯金よりはまだマシ」と捉え、投資初心者ほど「投資で一儲け」なんてことは絶対考えないようにしましょう
投資を見極める知識と経験を得るためにも、資産運用のデビューは早めにしたほうが良いです。まずは手始めに、失っても資産へのダメージがほとんど無いポイント投資から始めてみるのも良いでしょう。


では老後資金はどうやって作る?
老後資金を作る大まかな方法を3つ提案します。3つのうちどれか一つを選ぶのではなく、3つとも達成できれば豊かな老後生活も夢ではありません。
1.生活レベルを下げる(実現度:高)
これが最も手っ取り早く、実現しやすい方法です。現在掛かっている生活費のまま、将来見込める年金や資産を取り崩しながら、何歳まで維持できるかをシミュレーションしてみましょう。
もし、老後に入って数年で破綻してしまう様なら、生活費を抑えるための行動をしてみましょう。
例えば携帯電話や電気・ガス・通信の業者、家賃やサブスク、保険や教育費、趣味や浪費など、生活費全般を見直して最適化します。
今より安くなるように業者を変えたり、プラン変更や回数・頻度を少なくするなど、徹底的に出費を抑える努力が必要です。
非常に面倒だったり辛いこともあるかもしれませんが、これが成功すれば老後資金が今のままでも、より長く維持できるようになります。
ただし、将来起こるかもしれない不測の事態に対処できない可能性はあります。


2.私的年金に加入する(実現度:手堅い)
私的年金とは、公的年金(国民年金と厚生年金)のさらに上乗せする年金のことです。
確定給付型は、企業に加入した期間などに基づいてあらかじめ給付額が定められている企業年金制度です。
一方、確定拠出型とは、拠出した掛金額とその運用収益との合計額を基に給付額を決定する年金制度です。企業は追加拠出をしませんが、加入者本人が運用を行い高齢期の生活設計を立てます。
- 確定給付企業年金制度(DB)…・規約型確定給付企業年金・基金型確定給付企業年金
- 確定拠出年金制度(DC)…・企業型確定拠出年金・個人型確定拠出年金(iDeCo)
- 国民年金基金制度…自営業者やフリーランスなど第1号被保険者が任意で加入する制度
※厚生年金基金は、厚生年金保険法等の改正により平成26年4月1日以降、新規設立は認められていません
この手段は、そもそも収入に余裕のない場合、加入したくてもできない可能性があります。また、中にはiDeCoなど途中解約できない縛りもありますので、加入には十分考慮する必要があります。
3.所得を増やす(実現度:難しい)
サラリーマンの方は転職活動をして、今よりもっと収入の上がる企業に転職する方法。またサラリーマンや個人事業主でも、副業や新たな事業を創出して収入を増やす方法です。
この方法は、十分すぎるほどの老後資金が得られる可能性があり、将来起きるかもしれない不測の事態にも影響されないなどメリットが大きいです。
その反面、失敗した時には収入が減ったり、資産を失うばかりか借金まで作ってしまうなどのリスクも考えられます。
しかし、どの成功者も成功するまで諦めずに試行錯誤して成功に至っている訳ですので、諦めないメンタルと、理解し支えてくれる人達がいれば、チャレンジする意義はあるかと思います。
まとめ
なぜ老後資金がこれほど問題になるのか。それは誰も自分の寿命を知らないからです。そして、5年先、10年先、30年先に世界がどうなっているのかも知りません。
ただ確実に言えるのは、誰でも歳を取るということです。
まだ年老いていない時に、年老いた自分を想像できないことは仕方ありません。しかし、何も手を打たないと年老いた時に困るのは自分自身です。
そこで、老後資金としてひとまず2,000万円を目標にしていれば良いかと思います。また、退職金や資産運用をもって老後資金を用意する計画を立てることをリタイアメントプランニングと呼びます。
今は資産を作る手段として、投資などの資産運用が随分と身近になったり、副業や新たな事業を創りやすくなって、良い時代が到来したんだと思っています。
人生100年時代、巷では「長生きリスク」なんて囁かれる時代です。長生きすることが憂鬱にならない為にも、老後資金はしっかりと準備しましょう。